仕事であって、遊びでもある。
ゴルフは、一生のパートナーですね
izuru 代表取締役 /
the starting point 代表理事
大塚友広
著書「ゴルフはインパクトの前後30センチ」(東邦出版)を上梓し、1年間でスコア70台を達成したアントレプレナーとして一躍名を馳せた大塚友広さん。常識では考えにくいその驚きの結果は、仕事にも通ずるシンプルな思考の賜物だという。大塚さんがたどり着いた、ゴルフと仕事をうまくこなすための考え方とは?
Photo : Takeshi Wakabayashi
Text : Masashi Takamura
Edit : Rhino inc.
最低3ヶ月は、童心に帰って
シンプルに打ち込むのみ
1年間で70台の達成。やはり驚きですが、最初からそうした目的意識をもって始めたのですか?
はい。やるからには、ビジネス同様に大きな目標を設定したかったんです。当初の目標は、イーブンパーでした。漠然と70台という目標ではインパクトに欠けるなと。 始めたのは、28歳のとき。ゴルフにはもともと興味はあったのですが、当時の仕事が富岡製糸場の世界遺産プロジェクトで、地元の群馬にいまして。そこで、200球1000円、280ヤードくらいのいい練習場があったんですよ。周辺に娯楽も少なかったので、それがきっかけに。 目標に関しては、ゴルフをやっている父親に「そんな簡単じゃない。最低でも70台なんて3年はかかる」と言われていたんです。でも「そんなわけねえだろ」と(笑)。そう言われると、「やってやろう」と燃え上がるタチで。 いざ始めてみると、周りのゴルフ経験者たちからは小難しい話ばかり。ただ、当時はもっと単純に考えたかったんです。ゴルフというスポーツは、距離が決まったコースで、ボールをひっぱたいて穴っぽこに入れる競技。これほどシンプルなものはないですよね。周りを見渡せば、これを複雑に捉えている人たちばかり。ここに、絶対隙間があると思ったんです。複雑な理論が絡み合っているところほど、イノベーションがかけられるんですよ。これは、絶対いけるなと。
アントレプレナー気質に火がついたんですね(笑)。実際やってみていかがでしたか?
計画を立てて、メモを取りながら、週に3回は練習です。ゴルフといってもスポーツですから、再現性が大事。つまり、反復することで自分のスイングを作ると。仕事が終わり帰宅した深夜に、外に出て素振りもしましたね。かなり怪しかったでしょうね(笑)。それに、打ち込みも大事です。僕は一時期、左肩が上がらなくなったこともあるほどです。とにかく独学でしたので、そのぶん回り道もしましたね。ダウンブローも100切るまでは知りませんでした。壁といえば、皆さん同様かもしれませんが、100を切るのが予定通りにはいかなかった。4、5ヶ月はかかってしまいました。
それでも、十分早いです(笑)。やはり、練習が大事なんですね。大人になると理屈ばかりで、ついつい効率よく、なんて手を抜きがちですが。
「上手くなりたいけど、全然上達しない」という人に、かなりの頻度で出くわしますが、どこか甘さがあるんですよね。大人になるとやはり理屈に走りたくはなります。ただ、そうした思考のギャップに答えがあって、むしろ、球を打つ、ということを本能的に楽しむことを繰り返して、上達する自分を楽しむ。子供のころのような感覚で臨むことが大事になってきます。最低3ヶ月は、童心に帰ってひたすらシンプルに打ち込むのみ。理想の弾道が出たときこそカタルシスが得られる瞬間。スコアが伴わないと気分はあがりませんが、シンプルな喜びが続ける助けになってくれますよ。
“ゴルフは物理”と、
割り切ることでメンタルも楽に
やり込んでいるゴルファーの中で、「メンタルが大事」という人に出会いますが、大塚さんはメンタルをどうコントロールしていますか?
僕は、メンタルコントロールをしていないです。ゴルフは、極めて物理的なスポーツ。いいショットも悪いショットも、そこには必ず物理的な理由があるんです。なぜ、曲がってしまったかを考えると、テイクバックのタイミングが早かった、早いことで切り返しが遅れ、少しずれてボールに当たったから右に出たといったように。そうした原因をロジカルに追い込めば、解決策も生まれます。つまりロジカルを極めようとすれば、メンタルが頭のなかに入る余地がないんですね。物理的でロジカル。解決法があるのもゴルフです。
フィジカルが完璧なゴルファーが初めてぶつかるのがメンタルの壁ですか?
そうですね。それまではひたすら練習を。ミスの理由がわかれば、修正は可能。しかしゴルフは不確実な部分が多いのも事実。 仕事に例えるとお客様に連絡を怠った。これは明らかなミス。この明らかなミスはなるべくやらないように練習を繰り返して再現性を高める。 しかし、それでも不確実性が高いのがゴルフ。ライの違いなどによってどうしても思うようにはいかないことが多い。 企業が商品をリリースして、当初求めた完璧な売上になかなかたどり着かないように、ゴルフも自分の思い描いた完璧なショットが出る確率は低い。 なので、明らかなミスはなるべく減らすように練習をして、コースに出たら完璧だけを追うのではなく理想と違っても「全てを受け入れる」ことも重要になります。 一喜一憂するよりも次に何をすべきか? を考えることに時間を使うべきです。
なかなかの境地です。たどり着くでしょうか?
まずは、自分の気持ちが楽になる方法を考えればいいです。例えば、コースだって広く捉えれば、気持ちも変わります。例えば、第1打。ボールがフェアウェイから大きく外れました。ピンを正面に見て、右側がOBゾーンで左側にフェアウェイで、そのまた左に内向きの斜面がある。その場合、多くの人が、ピンポイントでフェアウェイを狙いにいっちゃうんです。下手な人ほどそう。実際は、左の斜面を狙うくらいでいいんです。跳ねて戻る可能性もありますしね。広く捉えたぶん、打っていいゾーンが増える。そう捉えれば気分も楽になりますよね。ピンポイントで狙って、そこにボールが行く確率のほうが低い。素人の僕らの場合、ゼロに近いですよね。だから、OBゾーンだけを気にして、どこかでリカバリーできればいいんですよ。上手くならない人は、どこか自分で難しくしている。まずは、最悪の場合を考えること。最良はないと(笑)。そのリスクを考えられるかで結果が大きく変わります。スコアを残せる人は、リスクマネジメントができる人です。
ゴルフというスポーツは
一生のパートナーですね
実際、大塚さんにとってゴルフが仕事に与えた好影響は?
3つあります。一つは、仕事相手ならば、互いの距離が縮まります。二つ目は、人間性がわかる。実体験ですが、ゴルフができる人に仕事ができない人を見たことがない。同様に、仕事ができないけどゴルフができるという人も見たことがない。逆はありますよ。ゴルフができなくても仕事ができる人。ゴルフができる人って、物事をシンプルに捉えて、リスクマネジメントができる人なんです。局面ごとに正しい判断を迅速に下さなければいけないですからね。また、稀にスコアをちょろまかす人がいます。これをする人はビジネスでも同じようなことをやる。僕は競技ゴルフをやっていたので、相手のこともよく見ていますから、わかるんです。また、急に怒り出す人もいますね。これは単純に怖い(笑)。だから、ある意味、ビジネスでは、これから付き合えるかどうかがわかる「与信」にもなりうるんです。これを言っちゃうと、僕とコース回ってくれる人が減りそうですが(笑)。 三つ目は、僕がコーチをしているからですが、ゴルフでのアドバイスの的確さが、仕事でもそうだろうな、と想像していただける点です。例えば、コースで「このショットどうする」と聞かれた際に、僕が問題とその解決法を提案するわけです。仕事も同じですよね。課題解決の連続ですから。こちらから伝えることに、ゴルフと同じように安心感をもっていただけているかなと思っています。
今は、ある程度、楽しみとしてラウンドしていると思いますが、楽しみはなんでしょう。
コーディネイトは、楽しんでいます。行き帰りは、僕の事務所が入っているこちらのブランドのジャケットを着用します。先輩と回ることが多くて、名門へ行く機会もありますので、間違いがいない。プレーは、動きやすさを重視しながら、アメカジをベースに着こなしを楽しんでいます。ポロシャツとコットンパンツに、ツバがピンとしたキャップですね。マスターバニーエディションも、ポロシャツなどのウェアを持っていますが、好きなブランドのひとつです。僕の服選びは、どのコースで、誰と回るか、ということも想像して決めています。プレー後、シャワーを浴びて、クラブハウスでコーヒー飲みながらリラックスしている姿までイメージするんです(笑)。今は、先輩が多いのでカジュアルすぎてもダメなんですが。 ゴルフは、服が楽しめるスポーツ。若い人は、ファッションから入ってもいいと思うんですよね。今、ファストファッションが隆盛のなか、ゴルフに対して真摯な物作りをしているマスターバニーエディションのようなブランドもありますから。ゴルフくらいはこだわってもいいのかなって。
大塚さんにとってのゴルフとは?
なくてはならないもの。パートナーですね。 遊びとして始めたら、いつのまにか仕事になっていた。今では起業家とゴルフコーチの二足のわらじでやれているのも、ゴルフのおかげ。今後は両者を融合して、ゴルフクラブを国産で作りたいと思っています。 そして、子供に帰れるスポーツでもあります。コースに出る朝のワクワク感。上手くなりたくて練習する気持ち。仲間と会って、会話して、笑って、ボールを打って。時間にも遅れられないから、朝が苦手な僕もゴルフだけは遅刻しないですし(笑)。ホールが終わる頃には、なんだか別れが惜しくて。またこの人とラウンドできるかな? みたいな、まるで中学卒業のときのようなセンチメンタルな感じも好き。コースを眺めているだけで楽しいです。
このたび、新刊を出されますね。
ありがとうございます(笑)。前著よりもストイックに仕上げました。テーマは「スモールスイング」。ゴルフの練習ってブルンブルンとフルスイングばかりしている人が多いんですが、実はこの練習が効率的ではないんです。僕は、すべてのスイングはパターの延長線上にあると考えていまして、パターのような小さなスイングを極めることで、ドライバーやアイアンなどの大きなスイングにも応用できるというような理論です。スイングにおいては、「小は大を兼ねる」と。続きは新著でお願いします!(笑)。
大塚友広|Tomohiro Otsuka
1983年生まれ、群馬県富岡市出身。「まだ、誰も見たことのないものづくり」をテーマにデザイン性の高い白衣ブランド「DRESSIR(ドレッシル)」の開発などを行うizuru株式会社代表取締役、ふるさと群馬県富岡市において「地域に新たな経済循環を創造する」ための一般社団法人the starting point代表理事を務める。処女作「ゴルフはインパクトの前後30センチ!」(東邦出版)により、一躍有名に。現在は、自身が代表を務めるナチュラルワークスゴルフにて、ゴルフコーチとしても活躍中。新刊「ゴルフ歴1年で70台に突入できる30cmトレ」(東邦出版)も発売中。